光学薄膜成膜用の治具(ジグ)徹底解説!
光学薄膜の治具(ジグ)は、薄膜のコーティングプロセスや評価において、精密な操作や安定した保持を行うための重要な装置です。光学薄膜は、レンズやミラー、フィルターなどに均一かつ正確な厚さで薄膜を成膜するため、治具の役割は非常に重要です。成膜用治具は、光学薄膜を基板に精密かつ均一に成膜するために使用される装置や機器で、薄膜の品質に直接影響を与える重要な役割を果たします。成膜プロセスには蒸着、スパッタリング、化学蒸着(CVD)などの方法があり、それぞれに対応した治具が必要です。ここでは、成膜用治具について、さらに詳しく解説します。
1.成膜用治具種類のご紹介
1)基板保持治具
基板保持治具は、基板を正確な位置に固定し、成膜中の安定性を保つために使用されます。以下のような要素が求められます。
- 正確な位置合わせ: レンズやプリズムなどの基板が、成膜装置内で適切な位置に配置されていないと、膜厚の均一性が損なわれます。保持治具は基板を固定し、成膜中の動きを防ぐことで正確な位置合わせを維持します。
- 耐熱性と耐化学性: 成膜中に高温や化学薬品が使用される場合、保持治具はそれに耐える材料で作られている必要があります。セラミックやステンレス鋼などが一般的に使用されます。
- 回転機構: 膜厚の均一性を向上させるため、成膜中に基板を回転させる治具もあります。基板が一定の速度で回転することで、膜が均等に付着します。
2)回転治具(Rotating Jig)
回転治具は、特に蒸着やスパッタリングなどの物理蒸着法で重要な役割を果たします。この治具により、基板が成膜中に回転し、次のような効果を得ることができます。
- 膜厚の均一化: 基板を回転させることで、成膜材料が均等に分布し、膜厚が一定になるよう調整します。特に大面積の基板や複雑な形状の基板に有効です。
- 角度依存の成膜: 回転治具は、基板の傾斜角度を調整することもできます。これにより、特定の角度での成膜を行うことで、光学特性や膜の物理的性質をコントロールできます。
- 多層膜成膜: 回転治具は多層膜成膜にも役立ちます。多層膜を成膜する際、膜厚や構造のばらつきを最小限に抑えることができます。
3)マスク治具(Masking Jig)
マスク治具は、基板の特定の領域にのみ薄膜を形成するために使用されます。この治具により、不要な部分への成膜を防ぎます。
- パターンコーティング: 薄膜のパターンを形成するためにマスクが使用され、特定のエリアにだけ成膜を行うことができます。これにより、複雑な光学デバイスやフィルターが製造されます。
- 微細パターン対応: 高精度なマスク治具は、微細なパターンにも対応でき、フォトリソグラフィや蒸着プロセスで使用されます。特に、微小な回路やナノスケールのデバイスを作成する際に不可欠です。
4)ヒーター付き治具(Heated Jig)
成膜中に基板を加熱することで、薄膜の物理的特性や結晶構造を制御することができるため、ヒーター付き治具は重要な役割を果たします。
- 温度制御: 特定の材料やプロセスでは、基板温度が膜の結晶性や密着性に大きな影響を与えるため、ヒーター付き治具が使用されます。成膜中に基板温度を正確に管理することが必要です。
- 材料特性の向上: 酸化物薄膜や金属薄膜の成膜時に、基板を加熱することで膜の密着性や透明性が向上します。また、温度に依存する薄膜の反応性をコントロールすることも可能です。
5)電極付き治具(Electrode Jig)
プラズマを利用した成膜プロセスやスパッタリングにおいて、基板にバイアス電圧をかける必要がある場合には、電極付きの治具が用いられます。
- バイアス電圧の適用: スパッタリング法では、基板にバイアス電圧をかけることで、イオンの衝突を制御し、膜質や密着性を向上させることができます。この治具は基板に電気接続を確保しながら、基板の安定性を保つ役割も果たします。
- 放電安定化: プラズマプロセスでの治具は、プラズマ放電の安定性を確保するための役割も持ち、安定した薄膜の形成を助けます。
2.ドーム治具について
1)特徴と役割
保持治具における「ドーム」とは、球面形状の基板やレンズ、特定の形状を持つ光学部品を固定して成膜するための治具の一種です。ドーム形の基板は、特殊な光学特性を持つデバイスや機器で使用され、成膜プロセスでもその形状に合わせた治具が必要です。ドーム治具は、基板の湾曲した表面全体に均一な薄膜をコーティングするために設計されています。
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球面や曲面に対応した設計 ドーム形の保持治具は、球面や曲面を持つ光学部品を成膜プロセス中に安定して保持するために、部品の形状に合わせた設計がされています。通常の平面基板とは異なり、曲面や球面の部品は固定が難しいため、専用の保持機構が必要です。
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均一な膜厚を実現する配置 曲面や球面の基板は、成膜プロセスにおいて膜厚が不均一になりやすいため、ドーム治具を使用することで、基板を回転させたり、特定の角度に配置して成膜材料を均等に分布させます。これにより、曲面全体に均一な膜厚を実現します。
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回転機構による均一成膜 ドーム形の保持治具は、しばしば回転機構を備えており、成膜中に基板をゆっくりと回転させることで、蒸着物やスパッタリングによる膜厚のばらつきを最小限に抑えます。この回転機構は、蒸着法やスパッタリング法などで特に有効です。
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特定の角度での成膜 ドーム形の基板は、成膜時に光学的特性を最大限に引き出すために、特定の角度でコーティングされることがあります。ドーム治具は、その基板を正確な角度で保持し、膜の形成をコントロールします。例えば、曲面上に反射防止コーティングや誘電体多層膜を施す場合、光学特性に影響を与えないような角度で成膜を行います。
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温度管理 高温成膜が必要なプロセスでは、ドーム治具も温度管理が重要です。ヒーターを内蔵したドーム治具は、基板全体を均一に加熱し、膜の密着性や結晶性を向上させる効果があります。球面全体の温度分布を均等に保つことが、成膜の品質に直結します。
2)ドーム治具の使用例
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反射防止コーティング (ARコーティング)
ドーム形状のレンズやカバーガラスに反射防止コーティングを施す際、ドーム治具が使用されます。光学機器やカメラレンズ、プロジェクターなどで使われるレンズにARコーティングを施す際、表面全体に均一な膜を作成するためにこの治具が不可欠です。 -
保護コーティング
防塵や防水性を向上させるため、ドーム状の光学部品に保護コーティングを行う場合にも、均一なコーティングが求められます。特にドーム状のカバーガラスは、センサーやカメラなどの耐久性を向上させるため、保護膜が重要です。 -
光学フィルター
ドーム形状の光学フィルターに、多層膜を成膜する際にも使用されます。特定の波長のみを通過させるフィルターなどでは、膜厚が非常に重要であり、ドーム形の治具によって高い精度での成膜が可能になります。
3)ドーム治具の利点
- 曲面や球面に均一な成膜が可能。平面基板と異なり、複雑な形状にも対応できる。
- 成膜時の安定性を確保し、基板の精密な位置合わせができる。
- 温度や角度の管理が容易で、高品質な薄膜を形成できる。
- 膜厚の均一性が向上し、光学特性や膜の性能を最大限に引き出すことが可能。
4)ドーム治具の課題
- 製造コストが高く、形状が複雑なために精密な加工技術が必要。
- メンテナンスが難しく、特に高温成膜プロセスでは定期的なメンテナンスが求められることがある。
- 装置設置スペースが大きく、特に回転機構を備えた治具はスペースを取る傾向にある。
ドーム治具は、特殊な形状の基板やレンズに対応するため、精密な設計が求められます。薄膜の均一性と品質を保ちながら、光学特性を最大限に活用するために欠かせない治具です。
まとめ
光学薄膜の成膜用治具は、基板の位置制御、膜厚の均一化、プロセスの精度向上を目的として設計されています。各治具は、使用する成膜方法や基板の種類に応じて最適化されており、製造の精度や効率を大幅に向上させます。安達新産業株式会社では、治具の製造から成膜加工まで一貫して実施可能です。また管理についてもISO9001の品質管理に基づき適正に実施致します。